大学院は元々,大学の教員や企業の中でも研究所に勤務する研究者を養成することが,主な目的でした.そのため,現在でも多くの情報系大学院は,研究活動を通して人材を育てると言ったカリキュラムになっています.しかし,現在大学院修士の修了生の多くは,研究職に就かず,実務的な業務や製品開発に携わっています.
一方,ICTスペシャリスト育成コースは,社会が求める人材を輩出することを目的に,しっかりとした専門知識の伝授,実践的な演習・実習を取り入れ,実践的な教育を,産学連携で行っています.また,その教育内容と方法の決定に当たっては,大学と情報・通信系企業が共に検討をすることで,今,そして,将来必要となる知識と能力を持った人材を育てるために最適な内容,方法を具体化したものと言えます.もちろん,日々,よりよい教育の実現に向かって進んでいますから,常によりよいものへと進化を続けています.
※参考
研究者を多く抱えていることで,自他共に評価されている日立製作所において,日立製作所ならびに連結会社の従業員数は約40万人です.一方,日立グループの研究者は5,900名(約1.5%)です.(いずれの数も日立製作所HPから)
以前から,情報系の日本の大学や大学院の教育については,卒業生,修了生の知識・能力の点で,社会の求める人材となっていないとの指摘がありました.
特に,ここ数年は,具体的な指摘や検討が,政府内や,産業界で行われ,例えば,「IT 新改革戦略」(政府IT戦略本部2006/1)の中で,「(世界に通用する)高度IT人材の育成を促進し、産業界における高度IT人材の需給のミスマッチを解消する」ことが示されています.一方,日本経団連は、2005 年6月に提言「産学官連携による高度な情報通信人材の育成強化に向けて」を発表し,ICTにおける人材不足深刻化への警鐘を鳴らすとともに、「世界レベルの先進的ICT教育拠点」の設立を提案しています.このように,世界に通用するICT人材の育成は,国家危急の問題として認知され,産官挙げて対応を進めつつあります.
※参考
上記のことを受けて設置されたのが,高度情報通信人材育成支援センター(CeFIL)です.日本経団連による高度情報通信人材育成の取組みを継承するべく、有志企業(NTTデータ,新日鐵ソリューション,住商情報システム,東京海上日動,トヨタ,NEC,ユニシス,野村総研,日立製作所,富士通,リコー)によってつくられた組織(特定非営利活動法人)です.ICTスペシャリスト育成コースは,CeFILの賛助会員です.
はい.
産業界からも注目されており,シンポジウム等で,招待講演の依頼等が来ています.また,外部の方々の講演の中でも,ICTスペシャリスト育成コースの取り組みが,人材育成の優れた事例として取り上げられています.以下にいくつかを紹介します.
愛媛大学からは,情報工学コースと電気電子工学コースの教育に携わっている教員の一部が参加しています.また,産業界からは,20人を超える企業の現職の技術者や,そういった企業での実務経験のある方々が参加しています.これらの方々のほとんどは,10年以上の実務経験をお持ちです.
また,複数の企業が,ICTスペシャリスト育成コースの教育に協力する旨を表明しています.
ICTスペシャリスト育成コースの教育に参加している方々の現在の所属,または,以前所属していた企業は以下の通りです.
NTT,NTT西日本,NTTデータ先端技術,NTTコムチェオ,イーモバイル,科学技術振興機構,コンピューターシステム,サイボウズ,デーコム,日本電気,パナソニック,日立製作所,日立マクセル,東芝,他に特許事務所等(年度により参加,不参加があります)
インターンシップ受け入れ定員は大学院生数以上となっています。担任は大学院生と密接にコミュニケーションをはかり,大学院生のキャリアや希望業種の相談を行い,最も適していて,かつ教育効果の上がる会社を紹介します.これまでに行われたインターンシップでは,例外なく全員がスキルアップを果たせています.
これまでの修了生の就職先は就職情報をご覧ください,ICTスペシャリスト育成コースでは,少人数教育と企業に所属した実務家である現職技術者による授業があるために,修了生を受け入れる側の立場から,学生をしっかりと見ていただいており,多くのコメントが,愛媛大学側の教員に伝えられています.例えば,「○○君は,我が社であれば,△△の部署で活躍できると思う」,「○○君なら,私の部下に来てもらっても良いくらいだ」,「○○君は,□□の力がついてきている」,「○○君を推薦頂いてありがとうございます.」といったものです.
もちろん,ICTスペシャリスト育成コースに入学しただけで,就職状況が良いわけではありません.ICTスペシャリスト育成コースの教育が,産業界の求める人材を育てる内容となっているために,そこで学ぶ学生が,産業界から評価され,求められることに繋がっています.
悩み,すなわち従来コースの問題点は外国でも似ています.しかし,既に手は打ってあり,まさしくICTスペシャリスト育成コースに酷似しています.
ヨーロッパを中心に工学系の大学,大学院においては,博士前期課程までの約6年間の後半で1年程度のインターンシップを義務化しているところが多く見られます.有限な時間で実施しますので,研究を中心とする修士論文は免除されることもあります.結局,企業の業務に必要な実務的知識が増える一方であるため,習得すべき科目も増え,その不足を補うのが実務的科目であり,インターンシップである訳です.国外インターンシップも普通のことです.
例えば,ICTスペシャリスト育成コースで必修の内容となっている,プロジェクトマネジメントの知識は,情報通信系に限らず,工学領域全般はもちろん,行政や金融経済のあらゆる領域において,システムを構築などのプロジェクトを適切に進める為に必要な体系的な知識です.2010年3月に情報処理学会の全国大会と同時開催されたソフトウェアジャパン2010においてプロジェクトマネジメントをテーマとしたITフォーラムセッションが開かれていることからも,小手先の技術ではなく,情報通信分野のなかで,注目されている,そして重要な領域であることは分かると思います.
本当に小手先の教育しかしていないのなら,愛媛大学のICTスペシャリスト育成コースと同じく高度ICT人材の育成に対して,なぜ,東京大学,京都大学,大阪大学,北海道大学,名古屋大学,九州大学,東京工業大学,筑波大学,慶應義塾大学,早稲田大学を含む多くの大学が取り組み,類似のコースを設けているのでしょうか?
愛媛大学のICTスペシャリスト育成コースは,これらの先行している大学の高度ICT人材を行う教育・コースに対して,地方の大学が独自に,そして,それらの大学に負けるとも劣らない,さらには,他の大学が持っていない特徴(長期のインターンシップや地域との連携,産業界との強いつながりなど)を展開していることで注目されています.
平成22年度実施の入試から受験者の受験科目は、数学、英語、専門科目(情報工学または電気電子工学)としました。広範な理系学部・学科からの受験可能です。